我が国の高齢化率は27%であり、超高齢化社会を迎えています。高齢化率は今後ますます増加していくと考えられ、身体機能や認知機能の低下により、社会保障や介護負担、医療費の増大が懸念されます。そのため、高齢者における、疾患危険因子や予防因子の検索は重要な課題です。
垂水研究は、それらの問題点に対応するために、鹿児島大学と垂水市が協力して始めた研究です。垂水市は、40%以上の高齢化率であり、我が国の中でも高齢者の割合が高い地域です。そのため、垂水市在住の方を対象に長期間の観察研究を行い、加齢に伴う生活機能・身体状況及び認知機能が生命・機能予後にどのように関係しているか調査することは、近い将来、日本が迎える空前の高齢化社会に対応する道筋ができ、疾病予防や生命予後の改善による医療の発展だけでなく、寝たきりの予防など、介護必要度が軽減し、最終的に医療費の削減にもつながると考えられます。
そして何より、垂水市民の健康長寿に向けて始められた研究でもあります。参加頂いた方に対し、結果の報告会を行い、ご自分の健康状態を把握いただき、今後の健康増進につなげて頂きたいと思います。毎年この研究は続けてきますので、昨年と比べて何がよくなり、何が悪くなったのかを理解頂き、どのような生活を行っていけばよいか高齢となっても生活機能を維持することができるかもしれません。
この研究は、鹿児島県内の多職種にわたったスペシャリストが集まって、聴診や心電図、血管機能、24時間の血圧を評価する医師部門、口腔内の健康状態を評価する歯科部門、運動機能や認知機能を評価する理学療法部門、心理面を評価する作業療法部門、カロリーや塩分、食物繊維、その他、日常でどのような栄養成分を摂取しているかを評価する栄養部門、お薬の内服状況やかかりつけ薬局の必要性を評価する薬剤部門といった様々な分野にわたった、これまでに類を見ないコホート研究となっております。
40%以上の高齢化率を抱える地方都市である垂水市が、市民とともに健康長寿を全うする方策を模索・実現し、長期的に研究を継続することにより、垂水住民の健康長寿につながるだけでなく、垂水市から日本、そして世界に貢献できるメッセージを送ることができるのではないかと考えています。
研究概要/研究の方法
研究デザイン
前向き縦断観察研究
主要評価項目
生命予後(全死亡、心血管死、癌死、肺炎死)
疾患予後(脳卒中、虚血性心疾患、心不全、肺炎、癌、骨折、転倒)
機能予後(CGA変化、介護保険額、介護保険度、医療費)
副次評価項目
サルコペニア・フレイルに関連する因子の検討
研究方法の詳細
垂水市在住の一般住民を対象に以下の項目を評価し、長期的な予後との関連を調査する。
サルコペニア・フレイル、栄養状態、認知機能・認知症発症、脈波伝播速度(PWV)、口腔機能・口腔状態、要介護認定時・認知症高齢者の日常生活自立度
【評価・測定項目】
一般的項目
年齢、身長、体重、腹囲、血圧、脈拍
一般調査表
既往歴、生活歴、家族歴・家族背景、内服・治療歴、嗜好(趣味など)、学歴、仕事内容、便通状況、住居状況、MNA、CGA(生活機能に関する質問紙)
採血
白血球、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板、白血球分画、GOT、GPT、γGTP、BUN、Cr、尿酸、総蛋白、アルブミン、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、空腹時血糖、高感度CRP、BNP、高感度トロポニンT、HbA1c
介護保険とその金額、医療費、処方内容
医科部門
聴診
心電図:調律、心拍数、軸、QRS幅、ST変化、左室高電位の評価
血管機能:Cardio-ankle vascular index(CAVI)、上腕足首血圧比(ABI)
理学療法部門
体組成計(筋肉量、水分量、脂肪量)
握力
10m歩行速度
認知機能(NCGG-FAT, MMSE)
作業療法部門
作業意思決定(ADOC)
歯科部門
残存歯数・義歯使用と義歯適合
オーラルフレイルの評価
栄養部門
食物摂取頻度(BDHQ)
酢摂取
疫学部門
爪:微量金属測定
薬剤部門
調査表を用いた薬剤認識調査
看護部門
睡眠調査
聴力検査